穏やかな空気に包まれるふるさとの地。
毎日ここで暮らしているだけで
まるで温泉に浸かっているようにリラックスできます。

悩みながら東京で働いていたコロナ禍。
大切な人や言葉と出会い、人生を動かすことを決意しました。
Q.山陽小野田市にUターンするまでの経緯を教えてください。

中学・高校と山陽小野田市で過ごし、関西にある大学を卒業した後は山口県萩市にある旅館に就職しました。そこで約3年間働いているうちに接客業の奥深さを感じ、もっと経験を積みたいと思い東京へ。10年以上、フレンチレストランや和食店、カフェ、大手チェーン店など、ジャンルや規模もさまざまな店舗に勤め、接客や調理、店長業務を担当していました。

Uターンする最初のきっかけになったのはコロナ禍で勤めていた店が休業してしまったことです。当時は福井県の「福井新聞社」が経営する銀座の日本料理店で働いていたのですがコロナの流行により厳しい状況になりました。そこで会社が新規事業として始めたのが、福井県をはじめとする北陸の特産物を販売する物産展です。担当を任された私は、何もわからないなか、全国各地のデパートや商業施設で物産展を行うことになりました。売上は順調に上がって事業としては成功したのですが、私自身は、この仕事は一生従事するべきか葛藤し悩み迷う事が多く、いつか飲食店の仕事に戻りたいと願う毎日でした。

ある時、福井市が地元を舞台にした「小学館 ガガガ文庫」のライトノベル「千歳くんはラムネ瓶のなか」とコラボレーションしたプロモーションを行うことになり、物産展でもポスターを貼るなどPRの一環を担っていました。私も仕事の一環として作品を読んでみたところ、2021年、2022年と連続して「このライトノベルがすごい!」のランキング1位を獲得しただけあって とても面白く、ライトノベルへの意識が変わりました。

そしてUターンの大きなきっかけになったのがその作品の担当編集者・岩浅健太郎さんとの出会いです。仕事への真摯な姿勢やたびたび物産展に足を運んでくれる人柄に感銘を受け、岩浅さんが担当した本をすべて読むほどのファンになってしまったんです。

そのうちのひとつ、平坂読先生の小説の「世界は無数の悲劇や絶望、不条理が溢れているのを知りながらそれでも愛と笑顔に手を伸ばす闘いの日々」という一文を読んだ時に、私が飲食店でのサービスをしていた時に追い求めていたこととの共通点を感じ、もう一度何のために働くのかをしっかり考えるようになりました。そしてやっぱり私がやりたいのは飲食店での接客だという答えを見つけ、人生を動かしてくれたライトノベルをテーマにしたカフェを開くことを決意しました。

Q.Uターンしてカフェを開きたいと思った理由を教えてください。

長い間、東京の中心部に住んでいたのですが、もともと田舎育ちなので海や山が恋しくなって毎月のように自然が豊かな場所に出かけていました。コロナ禍に山陽小野田市に帰省して街のあちこちを見て回ったところ、改めて心が安らぐいい風景が多いことを感じ、「捨てたもんじゃない」と思ったんです。その頃から地元に戻るという思いが少しずつ湧いてきていたのだと思います。なので、自分でカフェを開く目標ができたのと同時に、地元に帰ることを決めました。また東京に比べて資金面のハードルが低いことも、地元を選んだ理由のひとつです。

Q.久しぶりに山陽小野田市に戻ってくることに不安はありませんでしたか。

両親と久しぶりに同居することに少し不安を感じていました。若い頃は意見が合わないこともありましたが、年を重ねるごとに両親も丸くなり、良好な関係を築けているのでほっとしています。これまでほとんどできていなかった親孝行を、今になって少しはできているのかなと思っています。

地域の人たちの日常の憩いの場であり、
時にはラノベファンの交流の場所になっています。
Q.現在の仕事について教えてください。

山陽小野田市に隣接する宇部市でライトノベルをテーマにしたコンセプトカフェ「カフェGAGAGA」を経営しています。私が調べた限り、ライトノベルに特化した一般的なカフェは全国初だと思います。店内にライトノベルのコーナーを設けていますが、コンセプトを打ち出しすぎるとライトノベルファン以外のお客さまは入りづらくなると思い、どなたでも来ていただけるような雰囲気づくりを心がけています。現在は、お客さまの1割くらいがライトノベルのファンの方で、そのほかは地元の方がほとんどです。

シックな空間で、ランチやデザート、コーヒーなど吉岡さんこだわりのメニューを提供。
宇部市役所の近くにある「カフェGAGAGA」。
店内の一画に自由に読める本や作者のサインなど、ライトノベルコーナーがある。
Q.飲食業のなかでカフェを選んだ理由を教えてください。

カフェは料理店に比べて、お客さま同士はもちろんスタッフとの会話を楽しむ機会が多い場所です。この場所があることで誰かと繋がったり、ふれあえるよろこびを感じられるようにカフェを選びました。また、カフェは幅広い年齢層の方が利用する場所です。当店は多くの方に何度も来てもらいたいという思いから価格を抑えていることもあり、学校帰りの学生さんから近隣のご年配の方までさまざまな方にお越しいただいています。

Q.コンセプトをどのように活かしていますか。

“ライトノベルに特化したカフェ”ということをSNSやメディアで発信することで、ライトノベルファンの方々が注目してくださっていることを感じています。先日も1週間のうちに福井、岐阜、大阪、東京と県外からファンの方が来てくれました。旅行にあわせてだと思いますが、当店を目的のひとつとしてもらえるのはとてもうれしいですね。

また、山口県出身の小説家・志馬なにがし先生がお店に遊びに来てくれたことをきっかけに、今年8月には先生のトークショーを開催することもできました。もともとライトノベルのファンの方はより楽しめるように、またライトノベルを知らない人が手にとるきっかけになるようにこれからも楽しい企画を考えていきたいです。

8月には山口県出身の小説家・志馬なにがし先生のトークライブを実施。
満席になったトークショー。宮城県から駆け付けたファンもいるのだとか。
Q.どんな時に仕事のやりがいを感じますか。

好きな仕事をやっているので、買い物や準備、調理、接客、企画などお店に関するすべての作業にやりがいがあります。うまくいかないことや大変なこともありますが、それも含めて楽しいですね。少しずつお客さまの数が増えたり、この場所を通じて人の輪が広がったり、一つひとつのことが未来に繋がっていることを感じています。

Q.これからの展望を教えてください。

何年かかるかわかりませんが、これからもっとブランド力をつけて、ゆくゆくは山陽小野田市にも出店できればと思っています。人が集まる場所があれば、自然とその周辺も活気づくと思うので、そういった賑わいを生む場所のひとつになることが目標です。

何もない土地だけど、私にとって
大切なものが全てあることに気づきました。
Q.Uターン後、生活はどう変わりましたか?

東京にいた頃と同じ飲食業ですが、自分でカフェを経営していることもあり、仕事がある日の自由な時間が増えたり、家に早く帰ることができるようになりました。また、休日は自然を求めて遠出することが多かったのですが、ここでは車で5分も走れば海を眺めたりできるので、気分のリフレッシュに時間やお金を費やすことが減って気楽になりましたね。

そして、休日の楽しみに加わったのは山口県の温泉めぐりです。特に気に入っているのは下関市の「一の俣温泉」です。美肌の湯といわれ、湯上りの肌がツルツルになるんですよ。

吉岡さんが好きなドラマ「下町ロケット」に出てくる風景と重なるという西高泊地区の田園風景。
関門海峡まで見渡せる「縄地ヶ鼻公園」の海岸は、夕暮れの時間帯が吉岡さんのおすすめ。
Q.以前住んでいた時と、印象の変化はありますか?

若い頃には気づけなかったですが、町全体に漂っている空気感がいいですね。ここに住んでいる人たちのおかげかもしれませんが、穏やかでリラックスできて。普段の暮らしがまるで温泉に入った時に感じるような心地よさに包まれているんです。

そして今感じるのは、東京にはあらゆるものが揃っていたけれど、私にとって大切なものはなかったということです。ここは何もないけれど、人と人との繋がりなど私が大切にしたいと思うものがあります。私はこれからも山陽小野田市で穏やかな日々を過ごしていきたいと思っています。

Q. 山陽小野田市に移住を考えている人にメッセージをお願いします。

私も何もないところが嫌で一度は離れた土地ですが、いま改めて「何もないって最高じゃないか」と思っています。この場所で何を見出して何を感じるかは人それぞれですが、「自分にとって本当の幸せって何だろう?」と思った時に、山陽小野田市に一度来てみると答えのヒントがきっと見つかるのではないかと思います。

 

※当インタビューは、2024年9月2日に行われたものです。